
工場や事業所では、製品をつくる過程や設備を洗浄する過程で、汚れを含んだ水が発生します。こうした水は工業汚水と呼ばれ、そのまま川や海に流すことはできません。環境を守るために、適切な処理を経てから排出する必要があります。
工業汚水と一口にいっても、その中身は業種によってさまざまで、処理の方法も一つではありません。本記事では、工業汚水とは何かという基本から、その発生源、代表的な処理方法の種類、そして処理が進む全体の流れまでを順を追って解説します。
工業汚水とは
はじめに、工業汚水がどのような水を指すのかを整理します。その定義と、家庭から出る生活排水との違いを見ていきましょう。
工業汚水の定義
工業汚水とは、工場や事業所での生産活動にともなって発生する、汚れを含んだ水のことです。製品の製造工程で使われた水や、設備や器具を洗浄した後の水などが代表的な例にあたります。
これらの水には、原料や製品に由来するさまざまな物質が溶け込んだり混ざっています。そのままでは環境に悪影響を及ぼすおそれがあるため、汚れを取り除いてから排出することが求められます。工業汚水は、適切な処理を前提として扱われる水だといえます。
生活排水との違い
水の汚れという点では、家庭から出る生活排水も同じように見えるかもしれません。しかし、両者には大きな違いがあります。
生活排水は、炊事や洗濯、入浴などによって排出されるもので、含まれる汚れの傾向はある程度共通しています。これに対して工業汚水は、業種や工程によって含まれる物質が異なります。油分が多い汚水もあれば、金属や薬品の成分を含む汚水もあり、その性質は一様ではありません。そのため、工業汚水の処理は、その中身に応じて方法を変える必要があります。
工業汚水の主な発生源
工業汚水は、どのような場面で生まれるのでしょうか。ここでは、業種ごとの発生のしかたの違いと、汚水に含まれる代表的な成分を取り上げます。
業種ごとに異なる発生のしかた
工業汚水の発生源は、業種によっても大きく異なります。たとえば食品工場では、原料の洗浄や調理の工程から有機物を多く含む汚水が出ます。金属加工の現場では、加工や洗浄の過程で金属成分や油分を含む汚水が発生します。
このほか、化学工業や繊維工業、印刷業など、それぞれの業種に特有の汚水があります。同じ工場のなかでも、製造ラインと洗浄工程とで出てくる汚水の性質が違うことも珍しくありません。さらに、季節や生産量によって汚水の量や濃さが変動する場合もあり、発生のしかたは決して一定ではありません。工業汚水を理解するうえでは、まず自社のどの工程からどのような汚水が出ているのかを把握することが出発点になります。
含まれる代表的な汚れの成分
工業汚水に含まれる汚れは、大きくいくつかの種類に分けられます。代表的なものは次のとおりです。
- 有機物:食品の残りものなど、生物に分解される性質をもつ汚れ
- 浮遊物質:水に溶けきらず、濁りのもとになる細かい固形物
- 油分:機械の潤滑や調理などに由来する油の成分
- 有害物質:金属成分や特定の化学物質など、環境への影響が大きい汚れ
これらのうち、有機物の量を示す指標としてはBODやCODといった数値が用いられます。どの成分がどれだけ含まれているかによって、必要な処理の方法は変わってきます。汚水の成分を知ることは、処理方法を考えるための前提となります。
工業汚水の処理方法の種類
工業汚水の処理方法は、大きく3つに分けられます。物理的な処理、化学的な処理、生物的な処理の順に、それぞれの考え方を見ていきましょう。
物理的な処理
物理的な処理は、「重力」や「ろ過」といった物理的な力を使って、水から汚れを取り除く方法です。汚水に含まれる固形物や浮遊物を分離することを主な目的としています。
具体的には、網を使って大きな固形物を取り除いたり、水との比重差を利用して汚れを沈めて分離したり、油分のように軽い汚れを浮かせて取り除きます。薬品や微生物を使わず、比較的単純な仕組みで汚れを分けられる点が特徴です。多くの場合、処理の最初の段階で用いられます。
化学的な処理
化学的な処理は、薬品を加えて化学反応を起こし、汚れを取り除く方法です。物理的な処理だけでは分離できない、水に溶け込んだ成分に対して効果を発揮します。
たとえば、酸性やアルカリ性に偏った汚水の性質を整える中和、細かい汚れを薬品でまとめて沈みやすくする凝集沈殿、有害な物質を反応によって無害な形に変える処理などがあります。汚水の成分に応じて適した薬品や反応を選ぶ必要があり、扱う成分によっては専門的な管理が欠かせません。また、薬品を使う以上、その保管や使用量の調整にも注意が求められます。物理的な処理だけでは対応しきれない汚れに対して、化学的な処理は重要な役割を担っています。
生物的な処理
生物的な処理は、微生物の働きを利用して汚れを分解する方法です。水に溶け込んだ有機物を、微生物が栄養として取り込み分解していく仕組みを使います。
代表的な方法に活性汚泥法があり、汚水に空気を送り込みながら微生物と接触させて有機物を分解します。自然界の微生物の力を活かすため、環境への負荷が小さい点が利点です。一方で、分解には一定の時間がかかり、処理のための設備も大きくなりやすいという面があります。有機物を多く含む汚水の処理で広く用いられています。
処理の仕組みと全体の流れ
これまで見てきた処理方法は、実際にはどのように組み合わされているのでしょうか。処理が進む基本的な工程と、処理の後に残る汚泥の扱いを解説します。
処理が進む基本的な工程
工業汚水の処理は、一つの方法だけで完結することはほとんどありません。汚水にはさまざまな汚れが混ざっているため、通常は複数の処理方法を順に組み合わせて進めます。
たとえば、はじめに物理的な処理で大きな固形物を取り除き、次に化学的な処理や生物的な処理で溶け込んだ成分を除去するという流れが考えられます。こうして段階を踏むことで、汚水を排出できる水準まで少しずつきれいにしていきます。どの方法をどの順序で組み合わせるかは、汚水の性質や除去したい物質によって決まります。
処理後に残る汚泥の取り扱い
工業汚水の処理では、水がきれいになる一方で、取り除かれた汚れが汚泥として残ります。沈殿によって分離された固形物や、微生物が有機物を分解する過程で生じる汚泥などがこれにあたります。
この汚泥もまた、適切に処理しなければなりません。汚泥は水分を多く含んでいるため、そのままでは量が多く、扱いに手間がかかります。そこで、脱水や乾燥によって水分を減らし、量を小さくしてから処分や再利用に回すのが一般的です。量が減れば、運搬や処分にかかる負担も抑えやすくなります。工業汚水の処理は、水をきれいにする工程と、残った汚泥を処理する工程の両方で成り立っています。
まとめ
工業汚水とは、工場や事業所の生産活動から発生する、汚れを含んだ水のことです。業種や工程によって含まれる成分が大きく異なるため、その処理は汚水の中身に合わせて方法を組み立てる必要があります。
処理方法には物理的な処理、化学的な処理、生物的な処理の3つがあり、実際にはこれらを順に組み合わせて汚水をきれいにしていきます。また、処理の過程で残る汚泥への対応も欠かせない工程の一つです。工業汚水の基本的な仕組みを理解しておくことは、自社の汚水とどう向き合うかを考えるうえで役立つはずです。
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